覚書き降り立った頃の思い出

あこがれの冒険者

ファーストキャラのタルタルで過ごしていた頃についてを思い起こすと、印象深い人達はたくさんいるけれど、中でも特に多くの影響を受けた一人の冒険者がいる。
なにしろタルタルから転生するときに私がエルヴァーン男子を選んだのは、もう性別云々にプレイスタイルを左右されたくなかったことの他に、その人がエルヴァーン男子だったからだ。ちなみにバストゥークを所属国に選んだのも、その人がバス人だったからだ。ぶっちゃけリスペクトである。それほどそのプレイヤーは、冒険者として、私の憧れの存在だった。

その人との出逢いは、サポ取り(サレコウベ)のために、グスゲン鉱山にLSメン総出でこもっていたときのことだ。

初心者ばかりで構成されたLSは、私を含めて何人かはLS外でサポ取りを終えていたけれど、大半がまだサポを未取得だった。
セルビナ側のクエの方がまだサポを取りやすい、という話だけは初心者たちの間でも知られていて、何よりレベリングの定番がバルクルム砂丘だったから、自然と「あとはサレコウベだけなんだよね」という状態になることが多かった。

LSメンバーでアライアンスを組み、グスゲンに乗り込んだものの、ヴァナにおいて「レベル差」というのは、シャレではなく非常にシビアで非情だ。圧倒的に強いグールを1匹倒す間に、みんなバタバタ倒れてゆく。倒れては戻って来て、ということを、私もレベルが下がるほど何度も繰り返した。

そんな阿鼻叫喚の光景を見かねた一人の冒険者が、そこに現われる。当時の前衛職ならおなじみの、全身を白く輝くバスの鋼鉄鎧で固めたその戦士は、やっとグールの1体が倒れた合間に、「サポとり?」とsayで話しかけてきた。
その人がいつからそこにいたのかも分からなかったけれど、状況からしてそう判断するのは、旅慣れた冒険者ならたやすかっただろう。

エルヴァーン男子で全身鋼鉄鎧、というなかなかにいかつい格好のその冒険者だったけれど、印象に反して、その人の物腰はやわらかく丁寧だった。
彼は「手伝うよ」と進み出ると、私達初心者を率いて、どんどんグールたちを倒し始めた。
あれほど1匹を倒すだけでも大変だったグールを簡単に斬り捨ててゆく姿は、まさに私達初心者たちにとって、仄暗いグスゲン鉱山内に颯爽と現われた光り輝くヒーローそのもの。PTは安堵と歓声にあふれ、ほどなくして希望者全員にサレコウベが行き渡った。

そしてグスゲンから全員で外に出たところで、私達初心者集団に、彼はこう提案してくれた。
「自力でやっていきたい、という気持ちは、俺もそうだからよく分かる。でも今回みたいに、高レベルの助けがどうしても必要になることが、この世界ではこの先もっと増える。俺に約束できるのはランク5までだけど、それで良ければ、困ったときはまた呼んでほしい」

ランク5、というのは、いわゆるミッションランクの話だ。当時は多くのプレイヤーが、まずは「ミッションランクを5まで上げる」ことをひとつの目標にしていた。
というのも、ランク5になることで、ジュノと各国を行き来する飛空挺に乗れるようになるからだ。
テレポイントワープや本ワープのある今なら必要もないけれど、そんなものはなかった当時は、この三国とジュノを行き来できる飛空挺は、とても貴重で重要な移動手段だった。

自身には何のメリットもないのに、そこまで気に掛けて申し出てくれた彼に、私達はその場でLS内で話しあい、「この人なら大丈夫だと思う」と満場一致を経てリンクパールを渡した。
前LSでの記憶から、私達は多かれ少なかれ「高レベルプレイヤー」に苦手意識を持っていたのだけれど、その印象を彼はくつがえしてくれた、というのも大きかった。

 

そうして彼は、私達初心者LSの心強い助っ人になると共に、頼れる先輩冒険者となった。
関わるうちに、彼はとても気さくで陽気な人であることが分かってきた。まだほとんどものを知らない私達に、一緒に遊びながら、彼は冒険者としての様々な知識を与えてくれた。たとえば連携やMBのタイミング。エレはとても強く、魔法感知だから危険だということ。様々な狩り場情報。様々なダンジョンについて。メインジョブの戦士ではレベル差がありすぎるから、私達と組めるレベルの魔道士を出して、一緒にレベリングPTを組んでくれたこともある。
カザムパス取りにも、率先して加わってくれた。そして当初言った通り、希望するメンバー全員がランク5になるまで、彼は私達をサポートしてくれた。

彼の尊敬すべきところは、それらが決して一方的ではなく、押しつけがましいものでもなかったことだ。彼は知識と経験と様々なスキルにおいて、私達より大きく秀でた冒険者だったけれど、何かをするときの主体はあくまで私達にあり、彼は決して偉ぶったり先輩面をしなかった。あくまで一介の冒険者、FF11というゲームをおもしろおかしくプレイする対等なプレイヤー同士、というスタンスで、私達に関わっていた。
だからこそ彼は、私を含め、メンバー全員から慕われていたのだと思う。

一度彼に、なぜ私達にそこまでしてくれるのか、と尋ねたことがある。高レベルプレイヤーである彼が、私達にそこまでするメリットなんてとくに無いはずだったから。
すると彼は、こんなことを答えた。
「正直、レベル上げに疲れてしまった。あなた達に会った頃は、本当はFF11を辞めようかと悩んでいた。でもあなた達を見ているうちに、FF11の楽しみ方を思い出すことができた」
そして彼はこうも言った。
「もう一度やってみよう、と思えたのは、(私)さんが『この世界で冒険がしたい』と言ったのを聞いたからなんだよ」

自分がいつどこでそんなことをゲーム内で言っていたのか、正直思い出せないのだけど、最初のLSでの顛末が尾を引いて、どこかでそんな話をしていたのだろう。
高レベルの世界はまだよく分からなかったけれど、「レベル上げに疲れて辞めてしまう」プレイヤーが実際に少なくない、という話だけは聞いたことがあった。
彼のような陽気な人でもそうなってしまうのか、とちょっと高レベル帯が恐くなり、またしんみりもしたのだけれど、彼がヴァナを去ることを結果的に引きとめられたのなら、私達との関わりも無駄ではなかったのだな、良かった、と思えた。

 

ちなみに、あとから本人が話してくれたのだけど、グスゲン鉱山で出会ったとき、彼は骨工スキルを上げるための骨くずを集めに来ていたらしい。そこで遭遇した、わらわらと集まってグールと戦っている初心者集団に、ぶっちゃけ最初は「うわ、めんどくせー」と思ったのだそうだ。けれどそのうち、どんどん薙ぎ倒されてはまた戻ってくる私達の姿を見ていられなくなったのだとか。

きっかけが何であれ、その後に彼が示してくれた誠意や行動が、何ら変わるわけではない。むしろだからこそ、そんなぶっちゃけた本音も笑い話として聞くことができた。
彼が丁寧で紳士的な人物だったことは最後まで変わらなかったけれど、それは要するに、彼が人に配慮できる大人だった、ということでもある。

 

冒険の序盤に、どんなプレイヤーと出会えるか。それはその後のヴァナでの過ごし方に、かなり大きな影響を与えると思う。当時のLSメンの中には、「初PTですごく嫌な思いをしたから、PTが嫌いだ」という人もいた。
嫌な思いをほとんどせず、むしろリスペクトしたくなるような良い出逢いにばかり恵まれた私は、とても幸せで幸運だったのだなと思う。