雑記

復帰後、ぼっちを選んだ理由

トゥー・リアは何もかもが美しくて、現実離れした神秘的で不思議な穏やかさがあって。いつ訪れても、ここは優しい。

ここにも多くの思い出がある。復帰後、ヴァナを歩き回っていて思うことは、つくづく「思い出が無いエリアがどこにもない」ということだ。街の中は勿論、どんなダンジョン、どんな辺境の地でも、必ず何かしらの思い出がある。このあまりにも広大な世界の中にあって、それは得難い宝だと思っている。

 

2021年11月現在。私はソロ専、要はぼっちのまま、この斜陽の世界を歩いてゆくことを選択した。

2011年までが現役プレイ、その後2019年に数ヶ月だけ復帰してまた辞めていることは、プロフ他でもふれている。

実をいえば、2019年の一度目の復帰時点では、ソロ専にこだわるつもりはなかった。むしろかつてフレや様々な人達とヴァナを駆け回っていた頃のように、他プレイヤー達と積極的に関わりを持つつもりでいた。かつての思い出が本当に楽しく眩しく、復帰すればまたあの頃のようなヴァナを見られると単純に考えていた。

けれど、いざヴァナに降り立ったとき。フレ達がことごとく引退しているであろうことは予想はしていたけれど、実際にそれを目の当たりにし、そして約8年というブランクのうちに「まったく知らない世界」に様変わりしていたヴァナの中に佇んだとき。驚くほど、あれほど懐かしく輝かしかったはずのヴァナの光景が、無彩色に、無機質に見えてしまった。そして、そのことに自分で衝撃を受けた。

何よりショックだったのは、フレ達が誰もいないこと自体ではなく、様変わりしたヴァナの様相それ自体でもなく。「ヴァナが無機質に見えた」という、そのことだった。

何も復帰してすぐにそう感じたわけではない。復帰してしばらくは、どこか空虚さは感じてはいたけれど、純粋にヴァナが懐かしく、かつて駆け回った美しい世界を楽しむことができていた。

そのうちに、徐々に虚しさと「こんなはずじゃなかった」という気持ちが大きくなっていった。そして、あるひとつのことを成し遂げたのを契機に、私はひどく感傷的な気持ちで、ヴァナから再び立ち去った。

あのときは、かつてあれほど美しく眩しかったヴァナがもう存在しないことに打ちひしがれて、軽率に復帰したことを後悔した。もう二度とヴァナには戻るまい、思い出の中の存在だけにしておこう、と思った。

あのとき、なぜあれほど私はショックを受け、そして復帰したことを悔やむほど悲しいと思ってしまったのか。

時間が経ち、ゆっくりと振り返ることが出来るようになるにつれ、それが理解できるようになった。

私は、ぶっちゃけてしまえば、今のヴァナに夢を見すぎていたのだ。かつてフレ達と駆け回ったヴァナと同じ世界がある、と思ってしまっていた。それが誤りだ。

今はもう、「あの頃のヴァナ」はどこにも存在しない。ほぼLv75制限で過ごした時代、現役時代の後半に解放されたLv99までのキャップ。たくさんのフレがいて、不便で何をやるにも大変で時間がかかった時代。面倒だったけれど、当時はそれが当たり前だったから不便とも思わず、むしろ不便であることが「広大な世界の広がり」を感じさせていた時代。

それらのすべてはオンラインゲームゆえの歳月のうちに過去のものになり、何より、当時のヴァナにはたくさんのフレンド達が、今はもうひとりもいなくなっていた。

今のヴァナには、もう私が「戻りたい」と思ったあの頃のヴァナは存在しないのだ。それは頭では分かっていたはずのことだった。オンラインゆえに、ヴァナはある意味で現実世界と同様、いつまでも同じままではいない。すべては変化してゆき、いつかはヴァナという世界そのものが消滅する。

それを実感し、受け入れるまでに、けっこうな時間を要してしまった。かつてヴァナで過ごした思い出があまりにも美しく楽しく眩しいものだったから、それがもう存在しないことが、純粋に悲しかった。

なので、もう二度とヴァナには戻るまいと思った。──はずなのだけれど。

2021年の10月。本当にたまたま、FF11の動画を見かけた。何気なく眺めたそれが面白くて、そこから芋づる式に、昔好きだったFF11の動画の数々を見返した。

たまらないほどヴァナを懐かしく感じた。

復帰しよう、とは、すぐには思わなかった。一度復帰したときに感じた虚しさと言いようのない悲しさを、まだ生々しく覚えていたからだ。

けれど同時に、3年も経って、当時の自分の複雑な感情やその理由を、冷静に消化することも出来ていた。

数日の間考えて、わりと気まぐれに、あっさりと、復帰に踏み切った。

かつての失敗を二度とは繰り返さない。今度は、最初から「当時のヴァナ」があるだなんて期待はしない。

ヴァナも2022年には20周年になる。誰に言われずとも、プレイヤーも関係者の誰もが、コンテンツとしてさすがに斜陽の時代であることは理解しているだろう。

いずれは必ず消えてゆく世界。かつで心から愛し、楽しんだ世界。もちろん、今でも変わらずに、ヴァナが愛しい。

だからこそ、ヴァナの最期を見届けるつもりで、いつか消えるまでに大好きなヴァナの地を再び歩いて、少しでもヴァナのことを覚えていられるように。だからあえて、今はプレイヤーの誰とも関わらない。「行きずりの誰かと少し言葉を交わす」程度のことならば良いけれど、がっつり関われば、「思い出を楽しむ」のではなく「今を楽しむ」行為に変わってしまう。あくまでも私は、ただ「ヴァナ・ディール」という美しい世界を愛でるためだけに戻るのだ。

そんな気持ちで、私は再度、ヴァナに復帰した。そして「誰とも関わらない」ために、私を知っている人が誰もいない別のワールドへと移転した。フレ達が既に誰もいないなら、元のワールドにこだわる理由は、名残惜しいという以外は無かった。

 

思えば昔、私は「ヴァナがなくなるそのときまで引退はしない」と宣言していた。宣言はしていたけれど、ぶっちゃけ、そんなことは出来ないだろうなとも内心思っていた。そして実際に、一度は完全に気持ちが冷める形で2011年にヴァナから去った。

奇しくもその引退から10年を経て、まさか再び、過去の戯れ言と同じことを考えるようになるとは思わなかった。

とはいっても、本当にヴァナが完全に停止し、消滅するそのときまで、プレイし続けているかは分からない。様々なリアルの理由でプレイ出来なくなることもあるだろう。単純に、気持ちが薄れることもあるだろう。

だから、「強いて言うなら」程度の指針にしておく。こうだ、と断言してしまうと、私はどうもそのことに縛られてしまう悪癖があるから、なおのこと断言はしない。

ただ、美しいヴァナを覚えておきたい。だから私は、ことさらゆっくりと、「ぼっち」であること以外を自分に架すことなく、この世界を楽しんでいこうと思う。